9・11の事件でアメリカが驚愕した、その衝撃と似たようなものが中東全体にあると言えるんじゃないでしょうか

『SIGHT vol.11』 2002年4月号掲載 ペシャワール会 現地元代表 / 中村哲 医師インタビュー

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過去最悪の治安状態

── 「戦争に勝って、すべてに負けたアメリカ」というテーマで話を聞きたいと思うんですが。
中村 いやあ、負けましたね。今回のイラクの攻撃がアフガンを成功例としてやったということなんでしょう?
── そうです、ええ。
中村 という意味からすると、なんか本当に正しい情報をブッシュ大統領自身知らないのか、知りたくないのか、どちらかですね。ひどいもんですよ。日本人の記憶というのは、明るいアフガン復興のムードで途切れているんです。その後どうなっているかというのはほとんどの人が忘れているんじゃないですかね。
── タリバンが全部追い出されてしまって、現状新しい暫定政権ができて、一応アフガニスタンには自由と解放がやってきたということで。
中村 はい (笑) 。
── 映画のエンドマークが出て、「ああ、よかったよかった。 じゃあ次の映画観なくちゃ」というんで日本を含めて世界の人たちが次の映画をさがしているわけなんですけれども。実はエンドマークも出ていなければハッピーエンドでもなければ……。
中村 いや、悪くなってますよ。
── 具体的に言うと状況というのはどういう感じなんでしょうか。
中村 これは自然災害も絡んでくるんですが、一番雄弁な事実は、昨年3月にUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)が「難民帰還、圧政が倒れたから帰れる」というプロパガンダをさかんにして。 衣食住は保障されるということで、昨年3月から12月までの間にパキスタンにいる200万人の難民のうち170万人を帰したんですね。ところが今年3月にまた帰還計画が発表されて、今度は180万人いる難民を3年間にわけて帰すというわけです。
── なんか計算があわない (笑) 。
中村  (笑) つまりですね、みんな帰っていったけど、食えないから彼らの大半はUターンして戻ってきたわけです。カブール市全体が郊外に行くとスラム化していまして壊れた小学校だとか、幼稚園だとか、そこにまるでホームレスの収容所みたいにして住んでるわけです。あれを見てると、かえって暮らしぶりが悪くなったとしかいいようがないですね。そもそも干ばつ避難民が大半ですから、そういう人たちは村が砂漠化して廃村になったから難民になったり国内避難民になってるわけです。だいたいアフガニスタンの人口の9割が農民または遊牧民です。だから干ばつ対策といいますか、まず食えるようにしなくては、とてもじゃないけど国の回復はないというのが私たちの認識だったんですが。昨年はですね、教育・女性の人権、ブルカを取るとか取らないだとか、そんな話ばっかりだったんです。本人たちに言わせると、それも大事かもしれんけど、まず命がないとはじまらない、というのが一般庶民の受け取り方でしたよね。
── フラットなアメリカ的な見方で言うならば、要するに国連が入ってきたぞ、と。 NGOが入ってきたぞ、と。今までそれこそ抑圧的な、まあそれこそフセイン政権とイメージをだぶらせるような抑圧的なタリバンが倒れて、みんなの自由が獲得されて、当然それによって経済活動も活発化し、世界からの援助が大量に入ってすべての人が幸せになったっていう話なんですけども、今のお話をうかがっているとまったく逆の現象が起きているという。
中村 逆ですね。
── せめてカブールだけでもいわゆるアメリカ、あるいは国連が残って軍事力を残して、ある程度の秩序回復はなされたんではないかというイメージがありますけれども、そういう現実はないんですか?
中村 秩序を壊してますね。
── 壊してる (笑) 。
中村  (笑) いやいや、これは決して誇張ではないんですよ。 カブールについてはISAFですか? 国際治安支援部隊が4,000人くらい進駐して。しかしカブールから彼らは出られない、というか出ないんです。カブールというのはアフガニスタンのなかでいわば特殊地域じゃないですか。そこの様子ばかりが伝えられて、地方といっても9割以上が地方なわけで。その実情はほとんど伝わってないですね。それはもうひどいもんです。これもまた信じてもらえないけど、私がいた2001年、おととしの10月ぐらいでしたかね。それまではアフガニスタンはおそらく世界で一番治安がいいところだったですよ。
── それはタリバン政権下の?
中村 ええ。戦闘地域は別として、彼らが支配している9割のところは、物を置き忘れてもそれをとられるということもないし、自転車泥棒なんてさらさらいなかったんですね。それが今や強盗・略奪が日常茶飯事になってきている。それは、アメリカ軍が自分たちの兵隊の犠牲を出さないために、地方軍閥を使ってカネと武器を大量に流入させたんですね。要するに、米軍は空からの攻撃だけといってもいいくらい下に降りてこない。地上戦は主にそういう軍閥を使うという形でアルカイダの討伐だとかタリバン政権の崩壊を促進させてきたんです。おかげで各地域の軍閥が復活して、抗争したり、その軍閥自身が盗賊であったりとかいうこともあって、我々が経験したなかでは一番治安が悪い状態です。
── あの、よく中村さんおっしゃってますけれども、タリバンというのは非常に抑圧的ではあったけれども、倫理的で禁欲的な政権だったから、秩序の維持に関しては刀狩りをやったり、きっちりと秩序を作り、倫理的・道徳的な管理というのはわりとまじめにやっていたということですよね。
中村 ええ。いきすぎもなかにはあったかもしれませんが。髭を伸ばせとかね。うっとうしいにしても…… (笑) 。犯罪の取り締まりについてもきびしかったです。その一番いい例が麻薬。これはほぼ、限り無くゼロに近いぐらい消滅していたんですよ。ところがおととし11月にタリバン政権が壊されてカルザイ政権ができますと、わーっと花畑のように復活してるんですよね (笑) 。
── 花畑 (笑) 。
中村 いやあすごい状態でしたね。国連が、麻薬を回収するために報奨金を出すとか出さないとかいうことで、相当衝突もありました。

お化けとお化けの戦い

── ということは、秩序維持が全然できてないというか、カルザイ政権そのものが、政権としての機能を果たしていないということなわけですか?
中村 そうですね。第一ああいう社会ですから、やっぱりアフガン人としての一体性というのは抗争しながらでもあるわけですよ。それがカルザイ政権の場合は自分の国の軍隊が信用できずに、アメリカの特殊部隊が護衛しているわけですよね。1年ぐらい前カンダハルで暗殺未遂事件が……。
── ありましたよね。
中村 その後いっぺんも地方へ出たことないですよ、カブールを。
――あ、そうなんですか。
中村 いや、そうなんですよ。東京だとかワシントンだとかドイツだとかよく行くじゃないですか? けれど自分の国は廻れないという。少なくともわたしたちが関わっている東部のほうは、みんな反感持ってますね。嘲笑まじりの。
── 日本の小泉首相が首相やってるんだけども、九州は恐いから行けないみたいなね (笑) 。
中村 それだけならまだいいんですが、日本の警視庁が信じられないから、アメリカ兵を皇居の前に立たせるだとか。それに近いですね。
── それじゃあホントに実質的にまったく機能してないというか、どちらかというと無政府状態に近いというか。
中村 そのとおりです。アメリカ側が負けたというか、泥沼化です。というのはカルザイ政権をたてるためには軍閥を潰さなくちゃいけない。ところがその軍閥を下請けにしてアルカイダ討伐をする。だから軍閥に武器とカネがどんどん流れるでしょう。カルザイ政権も考えればかわいそうで、せっかく傀儡(かいらい)としてたてられても、その、統一を邪魔してるのがたてた本人ですからね (笑) 。
── (笑) 。
中村 だから、みんなが噂してるのは米軍が出ていけば今の政権は1日とはもたないんじゃないか、と。まあ1日は言い過ぎでしょうが、長くはもたないということです。
── 現実的に国家としての統治はない。軍閥が群雄割拠している。そのなかで北部同盟がそれなりに威力をもっている。そして、タリバンもものすごい力を復活させてきているというのを聞いたんですが。
中村 えーとですね、タリバンというのもこれまた、線引きが難しいんですよ。というのは、タリバンのあの考えかたというのはアフガン農村のエッセンスそのものですから。米軍が注意しているのは「敵は昼間は普通の農民の顔してニコニコしているけれども、夜になったら攻撃者に変ずる」と。それもそのはずで、タリバンの大部分というのは普通のまじめなお百姓さんだったんです。だからタリバンのなかでもいろいろいて、もちろん、狂信的な人もおったでしょうけど。大部分はまじめなイスラム教徒、それからもちろん神学生、それからパキスタンから駆けつけた義勇軍といいますか、そういう人たちで構成されていたわけです。おそらくどこまでがタリバンで、どこまでがタリバンでないかというのはこれは、“タリバン勢力” という言葉自身がお化けみたいなもので。
── なるほど。
中村 国際正義とか国際社会というのと同じでしょうね。だから今の闘争というのは抽象的に言うと、お化けとお化けの戦いだっていう (笑) 。わけわからないんじゃないですかね。さっき言ったように、タリバン勢力そのものがアフガン農村のエッセンスみたいなものですから、彼らの文化を破壊しつくさないと消えないですね。
── それは絶対無理ですよね。
中村 無理でしょうね。おまけに隣の北西辺境州、ペシャワールがあるのはパシュトゥン人(=アフガン人)の州ですね。去年の10月、総選挙があって、実質的にタリバン政権と言っていい政権が圧勝して与党になったんですよ。で、もう堂々とアルカイダ狩りに反対して、「われわれは阻止する」という宣言をしたんです。で、米軍がタリバンらしきものを追ってパキスタン国境に近付くと、パキスタンの連邦政府のほうは米軍に協力姿勢なので「あ、友軍がいる」と思ったら、いきなり北西辺境州のパキスタン軍に攻撃されたりとかですね、もうわけわからなくなっている。しかもですね、われわれのプロジェクトの、水路だとか井戸の作業員が600名か700名いますからね。で、彼らと話す機会が多いですが、なかには反タリバンの軍閥で働いている人もおれば、米軍下で働いたことのある人もいるし、タリバン下で働いている人も一緒にいるわけですよ。で仲良くやってますよ。だから極端な例をとれば、ひとつの家族からお兄さんはタリバンのほうで、弟は米軍下で働いている。
── (笑) 。
中村 家に帰れば仲良く飯を食っている。だからタリバンという識別がまず、むずかしい。しかも復讐社会です。これは子供だとか女性も含めて空爆で相当やられてますから、しかも堂々とした正規戦による死亡なら別として、空からどんどん爆弾を落としていっただけですよね。これは復讐の対象なんです。だから、イデオロギーなんかまったく関係ない、彼らにとっては。ともかく時期がくるのを待ってるというのが実態じゃないですかね。

燃やされた日章旗

── 結局、そういう感じでアフガニスタンというのは実質的な政治コントロールを失って、略奪、荒廃等々が進んでいるんですけれども。中村さんが現実的に関わっている農村等々の状況というのは、もっともっと生活レベルにおいても過酷な。
中村 ええ。地域によってずいぶん違うんですけどね、旱魃があるところは本当かわいそうですね。村そのものがなくなってしまうぐらいひどい状態。そこに国連から『さあ解放された。帰りなさい』と言われて帰っても、さっき言ったように彼らは村で生きていけないから出てきたわけですよね。村が荒廃したままだから当然戻って来るわけですよね、パキスタン側に。戻しても戻してもUターンしてくるという、限りのない…… (笑) 。みんな、「あれはUNHCRの失業対策じゃないか」と言ってるわけですね。
── 欧米人の失業対策をアフガニスタンでやってるみたいな (笑) 。
中村 善意の人もいるでしょうけれども、結果としてそうですね。ですから、その、反米感情のみならず、反国連感情、反NGO感情みたいなのが強いですね。日本では“NGOの時代” などと言われたりしますが、アフガニスタンではNGOと聞いただけでみんな嘲笑してたんですよ。「ハー、NGOが」って。
── そうですね。実態を何も見てないわけですからね。本当に空の上からの攻撃と、紙の上からの援助とが。
中村 ともかく米軍が去って、新しい秩序が出来るのを待ってるというのが総論的にいうと正しいでしょう。ソ連も、結局、地方で手を焼いてカブールだけを維持するようになって、そのうち倒壊して出ていくという経過をとったんです。アフガン農村の人たちは、もう領主がどう変わろうといい、と。村で彼ら固有の宇宙とでもいいますか、それが保障されて、彼らのなかで憂鬱なこともあるでしょうが、楽しいことも嬉しいこともあるんですね。その彼らの文化的な生活空間、そこで食べてそこで耕して生きていく……。そのことが保障されれば、極端なことを言うと政権がソ連になろうがアメリカになろうが関係ない。というのが普通の人の考え方ですよ。ところが彼らの宇宙にふれるようなことをすると、彼らは猛然と立ち上がります。容赦しないと思います。
── そういえばおっしゃってましたよね?アメリカ兵が地雷で飛ばされたときに、アメリカ兵が地雷で死んじゃったんじゃなくて、「アメリカ兵を殺した」というふうにアフガニスタンの方がおっしゃってたという。それはそこから類推すると、一種のテロ行為ですよね。要するに現実的にアメリカ兵に対する反感がアフガニスタン国内にあって、たとえば地雷でアメリカ兵を殺すというような、そういう徴候はいくらでもあるわけですね。
中村 ありますね。極端な例は、これは去年の話ですが、トラボラ(東部山岳地帯)の攻撃に参加した兵隊が、うちの診療所のまわりの人だから知ってるんですけれども、日当をもらい、ライフルももらって。「帰りがけに米兵を狙撃した」とかね。
── ものすごいブラック・ジョークみたいですね。
中村 誰が敵か味方かわからないですよ。米軍の協力者自身が反米的な気持ちを抱いているんで、おそらく終わりのない戦いになったと思いますね。
── そのなかで中東における対日感情というのは従来はすごく良好なものだったし、アフガニスタンにおいても日本人のイメージというのはかなりよいものであったと中村さんもおっしゃってたんですが。イラク攻撃に対して、日本がわりと早い時期に積極的な支持を出したことで、対日感情が変わったというのは事実なんでしょうか?
中村 僕は目撃したわけじゃないけれども、カブールでデモがあったときに、ユニオン・ジャックと星条旗と日章旗が仲良く並んで焼かれたんです。これまでのアフガニスタンでは考えられなかったことです。とくに向こうの人はBBCというかラジオ・ニュースを聞くというのを夜の娯楽にしているんですね。だからわれわれよりもニュースが伝わるのが速いです。で、「あの日本がわれわれを……。」という、裏切られた感情が広がってるという気がします。たとえば今、灌漑用水に力を入れて水路を作ってるんです。その竣工式が3月19日でしたから、イラク攻撃の前日ですよね。そのときに東部の主な長老が集まって、普通は日本をほめたたえる言葉が常套句として出てくるわけですね、お世辞にしろ。ところが今度は出てこなかったですね。“中村が” とか“ペシャワール会が” というのは出てきたけど、“ジャパン” だとか“ジャパニーズ” だとかはなかったですね。大体、匂いでわかりますね。かなり評判が悪くなってるというのが事実です。作らないでもいい敵を作ってるんです。もともとアフガニスタンとは利害関係なんてなんもなかったわけです。それを日本人がやがて襲撃されるような事態を、日本政府自身が作ってると思うんですね。その上で“邦人保護” とか、あんたたちが危なくしておいてね、保護だとか (笑) 。ちょっとやめてくれって言いたいですね。

アメリカの自慰行為

── で、今回、“アフガニスタンの成功” をふまえてイラクにも攻撃したんだというロジックが行使されていってるわけですけれども。中村さんから見てアメリカのやってる行為はどういうことだと思われますか?
中村 なんでしょうかねー。まあ一言で言えば出来の悪い西部劇なんですね。白人の間では恋あり涙ありで、いろいろなことが語られますけれども、インディアンというのはヒーローから撃ち殺される対象でしかなかったですね。考えてみればその続きであってね。アメリカという国もあまり進歩しないな、と (笑) 。
── (笑) 。
中村 自分たちの国民、自分たちを満足させるための自慰行為としか思えないですね。むしろソ連時代のほうが、まだ自制があったんです。はじめの頃はかなり宗教迫害もしましたけども、のちにはソ連の傀儡の大統領自身がモスクに詣ったりしながら、かなり軟化していたんです。ところが今、パキスタン国境側でモスクを簡単に爆撃したり、日常茶飯事とはいかなくても、かなり頻発するようになったんです。モスクというと、日本でいえば神社を爆撃するようなもんですよね。それはもうおかまいなしというか、そういう配慮が全然なくなってきたということです。危険ですね、これは。
── 危険ですね。となると、反米感情と、中村さんが「復讐がひとつの重要なメンタリティになっている」とおっしゃいましたけれども、マイナスのエネルギー、負のエネルギーがどんどん増大していくということですね。
中村 そうですね。特に、パシュトゥン民族というのは、アフガニスタンの半分以上を占める民族で、これが今、冷や飯食わされてるんですね。タリバンに協力したということで。で、マイノリティがマジョリティを支配するという奇妙な構造になってるんで、これは政治力学的にも長続きしませんね。悪いことにパキスタン側で、北西辺境州だけが独立した動きになってる。日本でいえば沖縄が独自に動きだして……。日本は県兵というのはいませんけども、沖縄の県警が米軍に向かって発砲するようなものですよね。そういう事態がうまれてきている。両者、北西辺境州それからアフガニスタン、同じパシュトゥン民族ですから、これが合体したときは恐怖でしょうね。だからパキスタン国家もそれによって壊滅する。それが最悪のシナリオですが。その前に、なんらかの安定的な動きが起きてくることを期待します。
── 今のお話をうかがってくると、アメリカの言う、空爆によってアフガニスタンのタリバン政権が崩壊し、アルカイダを支援するテロリストの機構がなくなり、アメリカにとってより安全な世界に進めたんだという論理とはまったく逆ですね。
中村 それは錯覚でしょうね。反米というか、アメリカ野郎めという怒りの感情というのは何万倍も増えてるんです。われわれは仕事柄、いわゆる一般の人々と、その辺のおじいちゃん、おじさんと話すことが多いですね。一般庶民の全部とは言わなくても、99%は反米的です。その傾向は強くなっていく。それに対する一握りの親米政権。こういう構図がだいたい定着している。これはパキスタンでもそうですし、アフガニスタンでもそうだし、おそらく周辺諸国でもそうじゃないかと思いますね。一握りの声だけを聞いて「安定した」と言ってるんでしょうね、たぶん。
── しかし、展望としてはまったく世界にとってもマイナスだし、アメリカにとってもマイナスだし、本当に空爆というのはなんの益ももたらさなかったわけですよね。
中村 そのとおりです。あれによってかえって敵を増やし、テロリストもおそらく増えたと思います。
── それと同じ行為を今度はイラクに対してやったわけですけれども。構造的にはまったく同じような事態が想定されますね。イラクのああいう状況というのはアフガニスタンの人はある程度の情報としてもっているんでしょうか。
中村 もちろん。我々よりも詳しいです。身近な問題ですからね。これは反タリバン/タリバンを含めてイラク攻撃反対だと。フセインはいい人とは思えないけど、その……、たとえばわれわれが小泉さんは日本にとって危険だからといって米軍の力で爆撃して殺そうと思いませんからね (笑) 。それと似たようなことやったわけですよ。やっぱり快くはみんな思ってない。さらにそれに乗じて、あれはイスラム教徒に対する偏見と攻撃である、というプロパガンダが逆にまた説得力をもってくるわけです。“イスラム” というのは彼らの皮膚に近いものです。だからといって、彼らも中身は同じ人間なんです。その皮膚の作りが気に食わぬと言って決行したのがイラク攻撃。彼らと話し合える余地は十分あったわけです。それを無視して、ともかくやっつけなきゃと、日にちまで決めてやったというのはやっぱり許しがたいでしょう。9・11の事件でアメリカ国民が驚愕した、その衝撃と似たようなものが中東全体であったと言えるんじゃないですかね。
── となると中村さんの考えるこれからの中東・アフガニスタンそして世界の状況というのは、アメリカがこの手のオペレーションを続けていく限り、もうひたすら悪くなるのみという感じですね。
中村 しかも狂暴化してるでしょう? なんかちょっとしたことでも、やっつけたいものはやっつけるという。まさに、土着のインディアンを征服してアメリカの国家ができたのと同じプロセスを辿ってる気がします。

聞き手:渋谷陽一