Introduction
ロッキング・オンのフェスや雑誌など、クリエイティブの最前線に立つクリエイティブディレクター/アートディレクターの2人。どのようにして、ロッキング・オンのデザインは生まれるのか。そして、ハイクオリティなデザインを生み出し続ける源泉は、一体何なのか。日々意識していることやロッキング・オンのデザイナーとしての矜持について、2人に語り合ってもらいました。
クリエイティブディレクター/『CUT』アートディレクター
田中
『ROCKIN'ON JAPAN』副編集長/アートディレクター
大橋
※写真左から順
体験をデザインする。「ロッキング・オン」のクリエイティビティ
――早速ですが、それぞれの自己紹介をお願いいたします!
田中
イベント部に所属している田中です。Jフェス全般のクリエイティブディレクションの担当と、カルチャー誌『CUT』のアートディレクターを兼任しています。
大橋
メディア部所属の大橋です。主に邦楽誌『ROCKIN'ON JAPAN』のアートディレクションや、洋楽イベント『rockin'on sonic』などのデザインを担当しています。
――フェス、雑誌など、ロッキング・オンの様々なプロダクトにおいて、デザインは重要な要素だと感じます。まずは、ロッキング・オンのデザインの特徴を教えていただけますか?
田中
ロッキング・オンは言葉を大切にしている会社なのですが、 言葉じゃない部分でその思いが伝わるような、潔くシンプルなデザインを大切にしています。
あと、前提として僕たちはBtoBではなく、BtoCのビジネスが主体となる企業です。僕たちが作るものが直接消費者の方に届くというのが、いちばん大きな特徴だと思っています。嗜好性が多様化している 今の時代だからこそ、心に刺さるデザイン表現を模索することがいちばん重要だと思っていますね。
大橋
私は、「ユーザーの体験をどうデザインするか」というイメージで仕事に取り組んでいます。フェスの現場でどう感じてもらえるか、雑誌で1ページめくる体験をどう感じてもらえるか、サイトや映像でどのようにユーザーが眺めるのか、すべてに対して意識していますね。
田中
Tシャツや雑誌は平面的、いわゆる2次元的なプロダクトですが、Tシャツなら当日に着て楽しんでもらう、雑誌ならページをめくって写真を感じながら原稿を読んでもらうなど、3次元的に体験が届くデザインになっているか、装飾一つとっても、体験価値や高揚感がどう上がるかという、ユーザーの行動に伴うデザインを考えていて。好きなアーティストのライブや映画を見に行った時、ポスターがかっこよかったり、昔買ったグッズを今でも着ていたり、素敵な体験をもたらしてくれたデザインと共存してきた経験が自分たちにもあるので、そういうものを自分たちの手で生み出したいなと思っています。
――音楽メディアであるということも、ロッキング・オンの特徴かと思います。音楽をデザインするうえで、必要だと思うことについて教えてください。
田中
音楽にはある程度の矛盾性や反構築美みたいなものが発生するし、僕自身そうした音楽の方が魅力的だと思っていて。デザインも同じで、パーマネント(永続的)なものを求めない、一過性の衝動のようなものでいい。今素晴らしいものであれば、1年後に古くなっても全然いいというのが強みだと思います。
大橋
強烈なインパクトがあるものってその当時の記憶と強く結びついていると思うので、いつまでも心に残りやすい。そういう意味で一過性の美しさを追求する意味があるんだと思います。当たり障りのないデザインでは感情を揺さぶるものにならないし、今のトレンドに合わせるだけでなく、「これなんだ」と提案できる確信と、 他の人を巻き込んでいく力が重要だと思いますね。周りの人をファンにする表現やコミュニケーションがクオリティにも直結していくと思います。
田中
音楽やデザインでは、合議でものが決まることがマイナスになり得る場合もあって。だからこそ、デザイナーが「こうなんじゃないか」と意見を発信することも重要なんですよね。どういうアウトプットになるかは作る人によって多種多様ですが、結果として人の気持ちを動かせるデザインになっていればいい。広く届くポップなデザインであると同時に、見た人が「ロッキング・オンのデザインだ!」と思うものを作る必要がある。ある種狭義のデザインを作らなければならないので、そこはいちばん難解なんですよね。
大橋
雑誌やTシャツのデザインは、誰に伝えるかが設定しやすいのである程度ターゲットが絞られますが、会社全体に関わるデザインやブランドロゴは、より不特定多数に語りかける必要があります。多様な考えの人に伝わるキャパシティがあるかどうかや、伝えやすくするためのフォーマル感みたいなものも意識していますね。
田中
市場や時代を考えつつも、最終的には自分自身が「ピンとくる」感覚と付き合いながら、着地点を探している感じですね。
「感動の蓄積」から生まれるデザイン
――デザインをする中で、2人が大切にしていることは何ですか?
田中
まず自分が作ったデザインに対して、自分が感動できているかがいちばん大切です。自分が何も感じていないのに、他の人が見て感じるわけがないので、自分の気持ちが投影できているかをいちばんに考えます。
大橋
私も同じです。なので、どんな現場でも自分や周りがもっとワクワクできることは何かを考えていますね。撮影であればアーティスト本人が嬉しいと感じることはなにか、読者にとってサプライズになることを起こせるか、現場にいる人を笑わせるにはどうすべきかなど、やり方はいろいろありますよね。
田中
デザインって考えれば考えるほど構築されて真面目になっていくんですが、客観的に見た時に、実は「ノリ」が最後まで残っているものが面白かったりするんです。ロジックで積み上げたものを吹っ飛ばしちゃうような面白さやユニークさがいちばん重要で、それをなくしてしまうとつまらないものになってしまうんですよね。実は理屈じゃない部分が大事なんです。
大橋
でも、その言葉で伝えられないことをビジュアル化して伝えるためには、知識や自分なりの理論がないと伝わらない。なので、伝えたい人にどうやって伝えるかロジックを立てて、そこからどうはみ出していくか、2種類のチェックポイントを作って、当初の狙い以上が達成できているか確認するようにしています。
――そういった感覚的なものやクリエイティビティは、どうやって磨いていけばいいのでしょうか?
大橋
基本的にはワクワクする気持ちをどこまで広げられるか、深められるかだと思うので、様々なものを見たり聞いたり、現場に行って体験することを大切にしています。苦手なものに対しても「なぜ苦手なのか」「いいところはないか」と考えることで、自分のキャパシティを広げています。
田中
デザイナーにとって好奇心はすごく大事で。デザイナーは自分が好きなものを作るだけではなく、自分とは全く違う感覚のものを作ることが求められることのほうがはるかに多いんです。でも、自分の感覚を頼りにしないと人が喜ぶものは作れない。だからこそ、いろんなところに好奇心を持ち、何を見ても自分の気持ちの反応を起こせる人間でいないといけません。とても体力を使いますが、それを維持できるかが重要です。
大橋
グラフィックデザインは、昔見た映画やアート作品やデザイン、なぜか気になった言葉や風景など、いろんな体験のエッセンスを自分の中に貯めて、コラージュしていく作業でもあるので、体験が少ないと感情が少ないデザインになってしまうんですよね。
だから、デザイナー採用でお送りいただくポートフォリオも、「まず、その人らしさや感情が詰まったもの」を作品や編集から感じるようにしています。見れば知識や経験、好きなものが背景として絶対に見えますから。
田中
優れた感性というのは、その人の「感動の蓄積」なんだと思うんですよね。感動の蓄積が多い人の方が感性が豊かで、アウトプットの幅が広くなります。人から勧められたものでも、散歩中に目に入ったものでも何でもいいから、好奇心を持って吸収し続けることがアウトプットに繋がっていくんです。
「これ面白いな」と思ったものが、何年も経ったあとに「あの時のあれが使えるかも」とアウトプットに繋がることもよくあって。当時はなぜそれに自分のセンサーが反応したのかわかっていなくても、無意識的に蓄積されて、結果としてアウトプットに繋がるというのが、デザインの本質のような気がしています。
――無意識に良いと思ったものが、後々デザインの場面で活きてくるというのは面白いですね。
大橋
私は「失敗」に期待することも多くて。レイアウト中に手が滑って失敗したものが意外と素敵だったりして、その失敗を広げて最終形態に持っていくこともあります。完璧に構築しようとするよりも、アクシデントをポジティブに楽しむような瞬間的なデザインのほうが、人の心に入りやすいこともあるんですよね。
田中
僕も、故意にロゴの縦横比を変えたり、自分でバランスを崩して変形したりしますね。ある種、違和感のあるものの中にこそ、新しいものが宿るんですよね。
あとは……意外と人の言うことを聞きます(笑)。自分だけで構築するより、人のポジティブな意見が入って構築されたデザインはいいなと思います。
大橋
自分が表現したい芯の部分は絶対にぶらさずに意見を聞いて、ブラッシュアップしていくことで、その人らしいアウトプットや、クオリティに繋がるんですよね。自分も前提も疑って疑い尽くして、それでも「これだ」と言えるまで理解を深めることが重要なんだと思います。
デザインはコミュニケーション。相手と自分に対する探求を怠らない
――好奇心や感覚の話がありましたが、デザインの知識についてはどのようにお考えですか?
田中
好奇心を持って吸収する一方で、私たちは専門家なので、色と色の相性や、布の質感、プリントの着地、映像のカット割り、写真のテクニックやライティングといった知識が必要です。感覚だけでは表現を狙った方向に向かわせられません。
大橋
さっき感覚が大切という話をしましたが、論理の上に感覚がなければ破綻してしまうんですよね。書体や印刷、写真、映像などあらゆるデザインの技術や知識を知っていればいるほど、ちゃんと伝わるものになります。デザインはコミュニケーションなので、相手と自分を知るための探求姿勢は絶対に必要です。
田中
僕も前職では写真ディレクションは経験していなくて、ロッキング・オン入社当時は写真の知識がないままディレクションをしなければならず、現場でたくさん勉強していきました。最初は知識がなくても、継続的に吸収していくことで、作れるものや感性が伸びていくので、いろんなことに挑戦してほしいですね。
応募を考えている方へのメッセージ
――最後に、デザイナー/アートディレクターとして働くうえでの、ロッキング・オンの強みを教えてください。
田中
インハウスデザイナーということもありますが、ロッキング・オンは雑誌から始まった会社なので、単に発注されたものを制作するだけでなく、デザイナーが編集視点を持ってフェスの根幹や企画立案の段階から関われる面白さがあります。ただデザインをするだけでなく、能動的に様々なプロダクトの根幹に関わり、自分の力で事業を進めていきたい方は、きっと楽しくやりがいのある会社だと思いますね。
雑誌やフェス、写真、装飾、プロダクトなど、デザインするデバイスを限定していないので、様々な表現に興味がある人は、楽しい環境だと思います。
大橋
インディペンデントなものからマスに向けたものまで、音楽にまつわるデザインが幅広くできるのも特徴だと思います。音楽をいろんなデザイン表現ができる会社なので、将来的にアートディレクターやクリエイティブディレクターになりたい人にぜひ応募してほしいですね。