ロッキング・オンの歴史は1972年、わたしが21歳のときに創刊した一冊の同人誌『rockin’on』から始まりました。
プロのライターは起用せず、一般読者の投稿雑誌として『rockin’on』を立ち上げました。その理念として持っていたのは、まさに音楽の聴き手である読者が当事者だという思いでした。聴き手=読者によるメディア、それが『rockin’on』だったのです。
以来、ロッキング・オンが創刊してきた雑誌メディアはすべて、「読者としてのわたしたちが読みたい雑誌を作る」という理念が貫かれたものです。
『ROCKIN’ON JAPAN』は、優れた日本の音楽とそれを聴く読者のためのリアルなメディアとして、『CUT』は、素晴らしいエンタテインメントと真摯に向き合う読者にとってのシリアスなメディアとして生まれ、いまでも読者から絶大な支持を集めています。
2000年になると、ロッキング・オンはイベントを始めました。『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』は、初回は6万490人の動員でした。20周年を迎えた2019年は、5日間の開催で合計33万7000人のオーディエンスが真夏のひたちなかに集まりました。
『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』が、スタートして数年間、「トイレ・フェス」という異名で呼ばれていたことを覚えている方はもう少ないかもしれません。他のイベントでは見たことのない、何百と並べられた仮設トイレの光景に、このフェスはそんなあだ名をつけられていたのです。
なぜロッキング・オンはそんなことをしたのか? それは、フェスというイベントに集まる参加者にとって、「トイレ」という一見見過ごされがちなインフラがとても大事だということを知っていたからです。イベントのプロではなかったわたしたちですが、参加者としてのリアルが何であるかは知っていました。だからわたしたちは、わたしたち=参加者にとって過ごしやすいイベントを作ろうとしたのです。
ロッキング・オンの理念とは、そういうことです。メディアであれば読者、イベントであれば参加者、つまり、音楽の聴き手であるみなさん/わたしたちにとって、音楽ともっと深く強く向き合うためのプラットフォーム、環境を作ることです。音楽という素晴らしい表現とよりいっそう出会える場を作り、その自由をさらに謳歌することです。
だから、ロッキング・オンの事業は広がります。出版から始まったロッキング・オンが、フェスやイベントを始め、ウェブメディアを起こし、アマチュア・ミュージシャンのコンテストをスタートさせ、アーティストのマネジメントを手がけるようになったのは、必然なのです。
ロッキング・オンは、1972年に始まったときと同じように、今日も音楽の聴き手の側に立って、読者や参加者のいる場所から、事業を進めています。そして、音楽が必然として広がるように、新しい事業が生まれ続けています。
音楽ユーザーのみなさまのニーズに真摯に向き合い、新しい音楽体験を提供できるよう、これからも挑戦と革新を繰り返します。
創業者 渋谷陽一